補償協定書(訴状添付別紙)

新潟水俣病協定書
協定書
昭48・6・21
新潟水俣病協定書
 新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社とは、新潟水俣病補償などの解決にあたり、新潟水俣病問題について、左のとおり協定する。
一 昭和電工株式会社は、同社が熊本水俣病問題を知りながら同社旧鹿瀬工場の廃液の処理を怠って阿賀野川の自然環境を汚染破壊し、その結果二度目の水俣病を発生させたものであることを認め、直接の被害者である死亡者、患者とその家族ならびに漁業関係者に多大の損害を与えると同時に、原因究明および訴訟の過程において遺憾な点があり、よって解決を長びかせて社会に迷惑をかけた責任を自覚、反省し、被害者および社会に心から謝罪する。
二 昭和電工株式会社は、加害者としての責任を果たすため、過去、現在および将来にわたる被害者の健康と生活上全損害をその生涯にわたり償いつづけるため、後記協定事項の履行を確約すると同時に、患者の最大のねがいが健康の回復−完全治癒にあることを正しく理解し、治療法の発見、患者の健康保持のための万全の措置を積極的に講ずる。
三 昭和電工株式会社は、新潟水俣病を発生させるに至った経過を深く反省し、今後自社工場はもちろん、鹿瀬電工株式会社を含む同社が支配力を有する関連会社工場の産業廃棄
物(排水、排気、残樺等) について厳重な点検と管理を行なって公害発生の防止に努め、明らかに右工場に起因して危険が予想されるときは、操業停止をも行なって絶対に住民に危害を及ぼさないことを誓約する。
四 水俣病は、人類がいまだかつて経験したことのない人間破壊であり、その病理についても被害の全貌についても未解明の部分が多く残っている。本協定は、あくまで現段階までに解明し得た事実にもとづくものであって、本協定の成立により補償問題は解決したとはいえ、水俣病被害が更に拡大し、深刻化している情況に鑑み、被害者に対する償いが、本協定にもとづく補償金の支払いのみによってすべて解決するものでないとの認識に立ち、今後において新たな問題が生じたときは、新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議との交渉に応じ、右各項の精神にのっとり誠意をもって問題を協議し、解決にあたる。
五 最近第三、第四の水俣病が問題とされているときにあたり、昭和電工株式会社も新潟水俣病共闘会議も、さらに水俣病問題の全貌を解明し、再発生防止の資料として後世に残すことは、当事者としての義務である。また、すべての被害者に救済の手をさしのべることが人間としての道である。このため、昭和電工株式会社は、一切の関係資料を提供すると同時に、今後可能な範囲で潜在患者の発見に努め、発見されたすべての患者に対しても、本協定の精神に基づき責任をもってその救済にあたる。
六 昭和電工株式会社は、以上の基本精神の立場に立って左記各協定事項を誠意をもって実行することを誓約する。
協定事項
 昭和電工株式会社は、次の各項に定める一時補償金、継統補償金、特別一時補償金および症状変化に対する措置によって補償を行なう。
第一 一時補償金・継続補償金
一 一時補償金
 訴訟に参加した患者を除く認定患者に対して次の区分によって支払う。
 1 死亡者および他の介助なしに日常生活のできない者(以下「重症者」と略)に対して一律一、五〇〇万円
 2 その他の者(以下「一般認定患者」と略)に対して一律一、〇〇〇万円
二 継続補償金
 訴訟に参加した患者を含むすべての生存患者に対して、生涯にわたって支払う。
 1 金額は、年額一律五〇万円とする。
 この金額は、総理府統計局作成の 「消費者物価指数年報」の「都市階級・地方・県庁所在都市別総合指数」に示される「新潟市」の昭和四七年度指数を一〇〇とし、この指数に三〇パーセント以上の著しい変動があった場合は改訂する。
 2 実施期日は、昭和四八年一月一日からとし、毎年三月末日および九月末日を支払期日として、各支払期日現在の認定患者に対して年額の二分の一ずつを支払う。
 3 実施期日以前に認定された者に対しては、それぞれの認定期日から昭和四七年一二月末日までの期間に対し、年額五〇万円の月割で計算した継続補償金相当額を、特別一時補償金として支払う。
 4 実施の細部については、付帯細目協定書による。

第二 症状変化に関する事項
 一訴訟に参加した患者および一般認定患者が重症者となったとき、または死亡 (原因が新潟水俣病による場合、新潟水俣病の余病または併発症による場合および新潟水俣病に関係した事故による場合)したときは、その時点において第一、一の1の一時補償金との差額を支払う。
 二 重症化の確認は、新潟県または新潟市が法にもとづく介護手当の支給を決定した場合、その決定をもって行なうものとし、細部は付帯細目協定書による。
 第三 訴訟に参加した患者に対する事項
一 判決時に死亡していた者(判決後昭和四八年四月二一日(確認書締結日)までに死亡した者を含む)および判決において重症者と認められた者に対して、特別一時補償金として、それぞれ判決で認められた金額と死亡者および重症者に対する一時補償金との差額相当額を支払う。
二 その他の訴訟に参加した患者に対しては、それぞれ、判決で認められた金額と一般認定患者に対する一時補償金との差額相当額を特別一時補償金として支払う。

第四 医療費に関する事項
 本協定にもとづいて支払われる補償金には、医療費は一切含まないものとする。

第五 今後の交渉に関する事項
 一 本協定で合意した協定事項を除き、次の事項については今後とも新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社との間で、その都度協議決定する。
 1 今後の認定患者の取扱いに関する事項
 2 本協定の運営に関する事項
 3 阿賀野川の、汚染排除を含む公害防止等の事項
 4 患者の健康の維持、回復等に関する事項
 5 その他必要と認めた事項
 二 前各項等について双方いずれかから協議の申入れがあった場合、相手方は直ちにこれに応ずるものとする。
 三 交渉申入れの窓口は、それぞれ、新潟水俣病共闘会議事務局および昭和電工株式会社本社とする。
 四 交渉のルール、協議内容等細部については付帯覚書による。
 第六 補償金の支払いに関する事項
 本協定にもとづく補償金の支払い方法、時期については付帯細目協定書による。
 以上協定の証として、本協定書三部を作成し、当事者署名捺印の上、各その一部を保有する。
   昭和四八年六月二一日
新潟水俣病被災者の会会長代行 橋本十一郎
新潟水俣病共闘会議議長    渡辺喜八
昭和電工株式会社取締役社長  鈴木治雄


細目協定書
昭48・6・21
 新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社とは、昭和四八年六月二一日付をもって三者の間に締結された「協定書」に付帯して、協定事項の実施の細部について、次のとおり細目協定を締結する。

 第一 継続補償金、特別一時補償金の取り扱い
一 協定事項第一、の継続補償金の実施については、次のとおり取り扱う。
 1 物価指数が基準指数薪潟市の昭和四七年度指数、改訂があった場合は、改訂後の指数をいうものとし、小数点一位までとする。)に対して三〇パーセント以上の増減を生じた場合は、三〇パーセントを基準指数に組み入れ、その後は改訂された基準指数を基礎として新たな指数を算出する。この場合、基準指数に組み入れない三〇パーセントを超える指数は、新たな指数に換算して繰り越すものとする。
 2 基準指数の改訂により、その後の物価指数算出の際、小数点二位以下の端数を生じた場合は、これを四捨五入する。
 3 基準指数の改訂に伴う金額の改定により、将来継続補償金の額に二〇〇円未満の端数を生じた場合は、これを四捨五入する。
 4 認定患者が死亡したとき、または認定を解除されたときはその時点から支払いを停止する。
 二 協定事項第一、の特別補償金については、月割計算の結果、一〇〇円未満の端数を生じた場合、これを四捨五入する。

 第二 症状変化に関する事項
一 協定事項第二の「重症者となったとき」は、認定患者が介護手当を受けた月が継続して三ケ月以上になった場合をいうものとする。ただし、症状によっては協議の上支払時期
を決定する。
 二 重症化の確認は、新潟県または新潟市が介護手当の支給を決定した場合、その決定通知を新潟水俣病共闘会議事務局および昭和電工株式会社が受領することにより行なう。
 三 死亡した場合の死因の確認は、医師の診断書によって行なう。
 第三 訴訟に参加した患者に関する事項
 重症者とは、判決において(a)ランク患者とされた者をいう。
 第四 補償金の支払いに関する事項
 協定事項第一、ないし第三、の補償金の支払い方法および支払時期は、次のとおりとする。
一 第一、の重症者に対する一時補償金は、昭和四八年四月二八日に支払った内金五〇〇万円および昭和四八年五月三一日に支払った内金二五〇万円を除き、残額のうち二五〇万円を昭和四八年六月三〇日までに、その余の残額五〇〇万円については、細目協定第二の一の事実を確認した時に支払う。
二 第一、の一般認定患者に対する一時補償金は、昭和四八年四月二八日に支払った内金五〇〇万円および昭和四八年五月三一日に支払った内金二五〇万円を除き、残額二五〇万円を昭和四八年六月三〇日までに支払う。
三 昭和四八年三月末日現在の認定患者に対する継続補償金および継続補償金の実施期日以前に認定された者に対する特別一時補償金は、昭和四八年六月三〇日までに支払う。
四 第三、の判決時に死亡していた者 (判決後確認書締結日までに死亡した者を含む。)および判決において重症者と認められた者に対して支払う差額相当額は、昭和四八年五月三〇日までに支払う。この場合、死亡者については、その遺族(共同相続人があるときはその代表者)に対して支払うものとする。
 以上協定の証として本細目協定書三部を作成し、当事者書名捺印の上、各その一部を保有する。
   昭和四八年六月二一日
      新潟水俣病被災者の会会長代行 橋本十一郎
        新潟水俣病共闘会議議長 渡辺喜八
      昭和電工株式会社取締役社長 鈴木 治雄


覚書
昭48・6・21
 新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社とは、昭和四八年六月二一日付をもって三者の間に締結された協定書前文第四項および同協定事項第五、(今後の交渉に関する事項)の取扱いについて、左記のとおり覚書を交換する。
 記
一 「今後の認定患者の取扱い」については、昭和電工株式会社は、協定事項に準じて補償するものとし、新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議は、円満解決に協力する。
二 「本協定の運営に関する事項」とは、協定事項の解釈適用上疑義を生じた場合の協議をいうものとし、円満解決を旨として協議決定するものとする。
三 「阿賀野川の、汚染排除を含む公害防止等の事項」については、現在具体的な問題が生じているものではないが、昭和電工株式会社の責に帰すべき事由によって、阿賀野川が汚染されるようなおそれがある場合は、協定書前文の精神にのっとり、協議解決する趣旨であることを確認する。
四 「患者の健康の維持、回復等に関する事項」については、国、公共団体等の行なう治療法の研究に対する促進協力などをいう趣旨であることを確認する。
五 協定書前文第四項およびこの覚書に基づく協議とは、新潟水俣病被災者の会を含む新潟水俣病共闘会議および昭和電工株式会社とも、それぞれ七名以内の交渉委員をもって行なう話合いをいうものである。
 以上覚書の証として本書三部を作成し、当事者署名捺印の上、各その一部を保有する。
   昭和四八年六月二一日
      新潟水俣病被災者の会会長代行 橋本十一郎
         新潟水俣病共闘会議議長 渡辺喜八
      昭和電工株式会社取締役社長 鈴木治雄