訴訟救助申立事件 反論意見書

平成19年(ラ)第1126号 訴訟救助付与決定に対する抗告事件

抗告人 国
相手方 XXXXXXXX
外10名
意見書
平成19年10月15日
東京高等裁判所第20民事部  御中

相手方ら訴訟代理人 弁護士 高島 章

抗告に対する答弁

 本件抗告を棄却する
との決定を求める。

理由

第1 はじめに
1 いわゆる「司法改革」は国(具体的には法務省がリード役)が推進している国家戦略である。「司法改革」の具体的な目標として,司法の民主化や「国民に開かれた,利用しやすい,敷居の低い裁判所」というものが強調されている。
2 司法改革の流れとは別に,平成16年1月1日からちょう用印紙額が若干値下げされている。また,株主代表訴訟についても原告の経済的負担軽減のため,請求の趣旨がどんなに高額でも一律1万3000円とされている。
のみならず,いわゆる被害者参加制度における損害賠償手続では,ちょう用印紙額が一律2000円とされている。
 これらは,いずれも,国民に開かれた利用しやすい裁判所という考え方が根本にあることは,説明を要しないところである。
3 国による本件即時抗告は,国家的悲願である「司法改革」の流れに反するもので,まして,代理人法務省)がこのような抗告を行うのは,自己矛盾という他ない。
判例も「必要ある場合に国が訴訟費用を立て替え支弁することは,国民から民事裁判権を信託された福祉国家の財政上の義務である。」と述べている(東京地判昭和48年2月23日判タ292号285頁)。
5 国(被告)は,水俣病問題を解決する責務がある。そのような大局観に立たない法務省の姿勢は,国策に反するものであり,まして,訴訟救助決定に関する抗告など,末梢的な部分で争ってくるのは,見識を疑うという他ない。

第2 新潟水俣病第二次訴訟
(的確な資料は必要があれば追完するが)いわゆる新潟水俣病第二次訴訟においては,原告91名全員に訴訟救助決定が問題なく認められ,国も同決定に抗告しなかったと仄聞しているところである。この種の抗告はここ2−3年目につくようになったと思料する。

第3 自己破産との対比
1 抗告人は,要旨「資力要件の判断には,相手方のみならず,これと生計を同じくする家族を単位として判断すべき」ものと主張する。仮にその立論自体が正しいとしても,問題はその証明方法・証明資料である。
2 自己破産申立と対比してこの点を考えてみよう。
通例,破産者本人の資産収入の証明に関しては,いわゆる「無資産証明」・源泉徴収票・給与明細書の提出が求められているが,生計を同一とする家族に関しては,これらの提出は求められていない。申立人本人作成の陳述書・「我が家の家計状況」で疎明しているに過ぎない。
 これとの対比でいえば,訴訟救助の要件の判断に際しては,申立人本人の所得証明等の外,その家族の収入に関しては,本人の陳述書の提出で十分であろう。

第4 支援センターの件について
1 抗告人は,日本司法支援センター(愛称法テラス,以下「支援センター」という)における法律扶助との対比で種々主張する。
2 しかし,そもそも,支援センターの法律扶助基準は,諸外国と対比してもまだまだハードルが高すぎ,「法で社会を明るく照らしたい。」「陽当たりの良いテラスのように皆様が安心できる場所にしたい。」という思い(愛称「法テラス」の由来 支援センターのホームページによる)とはほど遠い。
そもそも法テラスは,法務省(抗告人)の監督に服する団体であって,抗告人が支援センターの基準を持ち出して,相手方を論難するのは,いささか独善的ではなかろうか?

第5 新潟水俣病訴訟の特殊性
 本件は,差別や偏見の中で苦しんでいる原告らが勇気を振り絞って立ち上がったものである。訴訟費用の捻出に家族が協力的であるとは限らない。たとえば,XXXXXの家族は本件訴訟に協力的でなく,そのため,所得証明の取り寄せが困難であった。家族や職場に内緒にして訴訟を提起している者もいるのである。
 そのような環境下にある相手方に,厳格な資力証明の提出を求めるたり,同居家族の収入を過度に重視することは,本件訴訟の特殊性を弁えない態度という他ない。

第6 抗告人提出の裁判例について
 疎4は熊本水俣病の決定であるが,同訴訟において,ちょう用すべき印紙額は2万5900円であり,本件(20万円以上)とは事案を異にする。極論すれば,同決定が所得基準を550万円としているところから見て,本事案については,所得基準を5500万円と見てもおかしくはない。

第7 各論
 以上のとおり,抗告人の主張には理由がないが,念のため,相手方各人の収入等について説明する。
(以下省略)