訴訟救助申立事件 反論意見書

平成19年(ラ)第1126号 訴訟救助付与決定に対する抗告事件

抗告人 国
相手方 XXXXXXXX
外10名
意見書
平成19年10月15日
東京高等裁判所第20民事部  御中

相手方ら訴訟代理人 弁護士 高島 章

抗告に対する答弁

 本件抗告を棄却する
との決定を求める。

理由

第1 はじめに
1 いわゆる「司法改革」は国(具体的には法務省がリード役)が推進している国家戦略である。「司法改革」の具体的な目標として,司法の民主化や「国民に開かれた,利用しやすい,敷居の低い裁判所」というものが強調されている。
2 司法改革の流れとは別に,平成16年1月1日からちょう用印紙額が若干値下げされている。また,株主代表訴訟についても原告の経済的負担軽減のため,請求の趣旨がどんなに高額でも一律1万3000円とされている。
のみならず,いわゆる被害者参加制度における損害賠償手続では,ちょう用印紙額が一律2000円とされている。
 これらは,いずれも,国民に開かれた利用しやすい裁判所という考え方が根本にあることは,説明を要しないところである。
3 国による本件即時抗告は,国家的悲願である「司法改革」の流れに反するもので,まして,代理人法務省)がこのような抗告を行うのは,自己矛盾という他ない。
判例も「必要ある場合に国が訴訟費用を立て替え支弁することは,国民から民事裁判権を信託された福祉国家の財政上の義務である。」と述べている(東京地判昭和48年2月23日判タ292号285頁)。
5 国(被告)は,水俣病問題を解決する責務がある。そのような大局観に立たない法務省の姿勢は,国策に反するものであり,まして,訴訟救助決定に関する抗告など,末梢的な部分で争ってくるのは,見識を疑うという他ない。

第2 新潟水俣病第二次訴訟
(的確な資料は必要があれば追完するが)いわゆる新潟水俣病第二次訴訟においては,原告91名全員に訴訟救助決定が問題なく認められ,国も同決定に抗告しなかったと仄聞しているところである。この種の抗告はここ2−3年目につくようになったと思料する。

第3 自己破産との対比
1 抗告人は,要旨「資力要件の判断には,相手方のみならず,これと生計を同じくする家族を単位として判断すべき」ものと主張する。仮にその立論自体が正しいとしても,問題はその証明方法・証明資料である。
2 自己破産申立と対比してこの点を考えてみよう。
通例,破産者本人の資産収入の証明に関しては,いわゆる「無資産証明」・源泉徴収票・給与明細書の提出が求められているが,生計を同一とする家族に関しては,これらの提出は求められていない。申立人本人作成の陳述書・「我が家の家計状況」で疎明しているに過ぎない。
 これとの対比でいえば,訴訟救助の要件の判断に際しては,申立人本人の所得証明等の外,その家族の収入に関しては,本人の陳述書の提出で十分であろう。

第4 支援センターの件について
1 抗告人は,日本司法支援センター(愛称法テラス,以下「支援センター」という)における法律扶助との対比で種々主張する。
2 しかし,そもそも,支援センターの法律扶助基準は,諸外国と対比してもまだまだハードルが高すぎ,「法で社会を明るく照らしたい。」「陽当たりの良いテラスのように皆様が安心できる場所にしたい。」という思い(愛称「法テラス」の由来 支援センターのホームページによる)とはほど遠い。
そもそも法テラスは,法務省(抗告人)の監督に服する団体であって,抗告人が支援センターの基準を持ち出して,相手方を論難するのは,いささか独善的ではなかろうか?

第5 新潟水俣病訴訟の特殊性
 本件は,差別や偏見の中で苦しんでいる原告らが勇気を振り絞って立ち上がったものである。訴訟費用の捻出に家族が協力的であるとは限らない。たとえば,XXXXXの家族は本件訴訟に協力的でなく,そのため,所得証明の取り寄せが困難であった。家族や職場に内緒にして訴訟を提起している者もいるのである。
 そのような環境下にある相手方に,厳格な資力証明の提出を求めるたり,同居家族の収入を過度に重視することは,本件訴訟の特殊性を弁えない態度という他ない。

第6 抗告人提出の裁判例について
 疎4は熊本水俣病の決定であるが,同訴訟において,ちょう用すべき印紙額は2万5900円であり,本件(20万円以上)とは事案を異にする。極論すれば,同決定が所得基準を550万円としているところから見て,本事案については,所得基準を5500万円と見てもおかしくはない。

第7 各論
 以上のとおり,抗告人の主張には理由がないが,念のため,相手方各人の収入等について説明する。
(以下省略)

補償協定書(訴状添付別紙)

新潟水俣病協定書
協定書
昭48・6・21
新潟水俣病協定書
 新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社とは、新潟水俣病補償などの解決にあたり、新潟水俣病問題について、左のとおり協定する。
一 昭和電工株式会社は、同社が熊本水俣病問題を知りながら同社旧鹿瀬工場の廃液の処理を怠って阿賀野川の自然環境を汚染破壊し、その結果二度目の水俣病を発生させたものであることを認め、直接の被害者である死亡者、患者とその家族ならびに漁業関係者に多大の損害を与えると同時に、原因究明および訴訟の過程において遺憾な点があり、よって解決を長びかせて社会に迷惑をかけた責任を自覚、反省し、被害者および社会に心から謝罪する。
二 昭和電工株式会社は、加害者としての責任を果たすため、過去、現在および将来にわたる被害者の健康と生活上全損害をその生涯にわたり償いつづけるため、後記協定事項の履行を確約すると同時に、患者の最大のねがいが健康の回復−完全治癒にあることを正しく理解し、治療法の発見、患者の健康保持のための万全の措置を積極的に講ずる。
三 昭和電工株式会社は、新潟水俣病を発生させるに至った経過を深く反省し、今後自社工場はもちろん、鹿瀬電工株式会社を含む同社が支配力を有する関連会社工場の産業廃棄
物(排水、排気、残樺等) について厳重な点検と管理を行なって公害発生の防止に努め、明らかに右工場に起因して危険が予想されるときは、操業停止をも行なって絶対に住民に危害を及ぼさないことを誓約する。
四 水俣病は、人類がいまだかつて経験したことのない人間破壊であり、その病理についても被害の全貌についても未解明の部分が多く残っている。本協定は、あくまで現段階までに解明し得た事実にもとづくものであって、本協定の成立により補償問題は解決したとはいえ、水俣病被害が更に拡大し、深刻化している情況に鑑み、被害者に対する償いが、本協定にもとづく補償金の支払いのみによってすべて解決するものでないとの認識に立ち、今後において新たな問題が生じたときは、新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議との交渉に応じ、右各項の精神にのっとり誠意をもって問題を協議し、解決にあたる。
五 最近第三、第四の水俣病が問題とされているときにあたり、昭和電工株式会社も新潟水俣病共闘会議も、さらに水俣病問題の全貌を解明し、再発生防止の資料として後世に残すことは、当事者としての義務である。また、すべての被害者に救済の手をさしのべることが人間としての道である。このため、昭和電工株式会社は、一切の関係資料を提供すると同時に、今後可能な範囲で潜在患者の発見に努め、発見されたすべての患者に対しても、本協定の精神に基づき責任をもってその救済にあたる。
六 昭和電工株式会社は、以上の基本精神の立場に立って左記各協定事項を誠意をもって実行することを誓約する。
協定事項
 昭和電工株式会社は、次の各項に定める一時補償金、継統補償金、特別一時補償金および症状変化に対する措置によって補償を行なう。
第一 一時補償金・継続補償金
一 一時補償金
 訴訟に参加した患者を除く認定患者に対して次の区分によって支払う。
 1 死亡者および他の介助なしに日常生活のできない者(以下「重症者」と略)に対して一律一、五〇〇万円
 2 その他の者(以下「一般認定患者」と略)に対して一律一、〇〇〇万円
二 継続補償金
 訴訟に参加した患者を含むすべての生存患者に対して、生涯にわたって支払う。
 1 金額は、年額一律五〇万円とする。
 この金額は、総理府統計局作成の 「消費者物価指数年報」の「都市階級・地方・県庁所在都市別総合指数」に示される「新潟市」の昭和四七年度指数を一〇〇とし、この指数に三〇パーセント以上の著しい変動があった場合は改訂する。
 2 実施期日は、昭和四八年一月一日からとし、毎年三月末日および九月末日を支払期日として、各支払期日現在の認定患者に対して年額の二分の一ずつを支払う。
 3 実施期日以前に認定された者に対しては、それぞれの認定期日から昭和四七年一二月末日までの期間に対し、年額五〇万円の月割で計算した継続補償金相当額を、特別一時補償金として支払う。
 4 実施の細部については、付帯細目協定書による。

第二 症状変化に関する事項
 一訴訟に参加した患者および一般認定患者が重症者となったとき、または死亡 (原因が新潟水俣病による場合、新潟水俣病の余病または併発症による場合および新潟水俣病に関係した事故による場合)したときは、その時点において第一、一の1の一時補償金との差額を支払う。
 二 重症化の確認は、新潟県または新潟市が法にもとづく介護手当の支給を決定した場合、その決定をもって行なうものとし、細部は付帯細目協定書による。
 第三 訴訟に参加した患者に対する事項
一 判決時に死亡していた者(判決後昭和四八年四月二一日(確認書締結日)までに死亡した者を含む)および判決において重症者と認められた者に対して、特別一時補償金として、それぞれ判決で認められた金額と死亡者および重症者に対する一時補償金との差額相当額を支払う。
二 その他の訴訟に参加した患者に対しては、それぞれ、判決で認められた金額と一般認定患者に対する一時補償金との差額相当額を特別一時補償金として支払う。

第四 医療費に関する事項
 本協定にもとづいて支払われる補償金には、医療費は一切含まないものとする。

第五 今後の交渉に関する事項
 一 本協定で合意した協定事項を除き、次の事項については今後とも新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社との間で、その都度協議決定する。
 1 今後の認定患者の取扱いに関する事項
 2 本協定の運営に関する事項
 3 阿賀野川の、汚染排除を含む公害防止等の事項
 4 患者の健康の維持、回復等に関する事項
 5 その他必要と認めた事項
 二 前各項等について双方いずれかから協議の申入れがあった場合、相手方は直ちにこれに応ずるものとする。
 三 交渉申入れの窓口は、それぞれ、新潟水俣病共闘会議事務局および昭和電工株式会社本社とする。
 四 交渉のルール、協議内容等細部については付帯覚書による。
 第六 補償金の支払いに関する事項
 本協定にもとづく補償金の支払い方法、時期については付帯細目協定書による。
 以上協定の証として、本協定書三部を作成し、当事者署名捺印の上、各その一部を保有する。
   昭和四八年六月二一日
新潟水俣病被災者の会会長代行 橋本十一郎
新潟水俣病共闘会議議長    渡辺喜八
昭和電工株式会社取締役社長  鈴木治雄


細目協定書
昭48・6・21
 新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社とは、昭和四八年六月二一日付をもって三者の間に締結された「協定書」に付帯して、協定事項の実施の細部について、次のとおり細目協定を締結する。

 第一 継続補償金、特別一時補償金の取り扱い
一 協定事項第一、の継続補償金の実施については、次のとおり取り扱う。
 1 物価指数が基準指数薪潟市の昭和四七年度指数、改訂があった場合は、改訂後の指数をいうものとし、小数点一位までとする。)に対して三〇パーセント以上の増減を生じた場合は、三〇パーセントを基準指数に組み入れ、その後は改訂された基準指数を基礎として新たな指数を算出する。この場合、基準指数に組み入れない三〇パーセントを超える指数は、新たな指数に換算して繰り越すものとする。
 2 基準指数の改訂により、その後の物価指数算出の際、小数点二位以下の端数を生じた場合は、これを四捨五入する。
 3 基準指数の改訂に伴う金額の改定により、将来継続補償金の額に二〇〇円未満の端数を生じた場合は、これを四捨五入する。
 4 認定患者が死亡したとき、または認定を解除されたときはその時点から支払いを停止する。
 二 協定事項第一、の特別補償金については、月割計算の結果、一〇〇円未満の端数を生じた場合、これを四捨五入する。

 第二 症状変化に関する事項
一 協定事項第二の「重症者となったとき」は、認定患者が介護手当を受けた月が継続して三ケ月以上になった場合をいうものとする。ただし、症状によっては協議の上支払時期
を決定する。
 二 重症化の確認は、新潟県または新潟市が介護手当の支給を決定した場合、その決定通知を新潟水俣病共闘会議事務局および昭和電工株式会社が受領することにより行なう。
 三 死亡した場合の死因の確認は、医師の診断書によって行なう。
 第三 訴訟に参加した患者に関する事項
 重症者とは、判決において(a)ランク患者とされた者をいう。
 第四 補償金の支払いに関する事項
 協定事項第一、ないし第三、の補償金の支払い方法および支払時期は、次のとおりとする。
一 第一、の重症者に対する一時補償金は、昭和四八年四月二八日に支払った内金五〇〇万円および昭和四八年五月三一日に支払った内金二五〇万円を除き、残額のうち二五〇万円を昭和四八年六月三〇日までに、その余の残額五〇〇万円については、細目協定第二の一の事実を確認した時に支払う。
二 第一、の一般認定患者に対する一時補償金は、昭和四八年四月二八日に支払った内金五〇〇万円および昭和四八年五月三一日に支払った内金二五〇万円を除き、残額二五〇万円を昭和四八年六月三〇日までに支払う。
三 昭和四八年三月末日現在の認定患者に対する継続補償金および継続補償金の実施期日以前に認定された者に対する特別一時補償金は、昭和四八年六月三〇日までに支払う。
四 第三、の判決時に死亡していた者 (判決後確認書締結日までに死亡した者を含む。)および判決において重症者と認められた者に対して支払う差額相当額は、昭和四八年五月三〇日までに支払う。この場合、死亡者については、その遺族(共同相続人があるときはその代表者)に対して支払うものとする。
 以上協定の証として本細目協定書三部を作成し、当事者書名捺印の上、各その一部を保有する。
   昭和四八年六月二一日
      新潟水俣病被災者の会会長代行 橋本十一郎
        新潟水俣病共闘会議議長 渡辺喜八
      昭和電工株式会社取締役社長 鈴木 治雄


覚書
昭48・6・21
 新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議と昭和電工株式会社とは、昭和四八年六月二一日付をもって三者の間に締結された協定書前文第四項および同協定事項第五、(今後の交渉に関する事項)の取扱いについて、左記のとおり覚書を交換する。
 記
一 「今後の認定患者の取扱い」については、昭和電工株式会社は、協定事項に準じて補償するものとし、新潟水俣病被災者の会および新潟水俣病共闘会議は、円満解決に協力する。
二 「本協定の運営に関する事項」とは、協定事項の解釈適用上疑義を生じた場合の協議をいうものとし、円満解決を旨として協議決定するものとする。
三 「阿賀野川の、汚染排除を含む公害防止等の事項」については、現在具体的な問題が生じているものではないが、昭和電工株式会社の責に帰すべき事由によって、阿賀野川が汚染されるようなおそれがある場合は、協定書前文の精神にのっとり、協議解決する趣旨であることを確認する。
四 「患者の健康の維持、回復等に関する事項」については、国、公共団体等の行なう治療法の研究に対する促進協力などをいう趣旨であることを確認する。
五 協定書前文第四項およびこの覚書に基づく協議とは、新潟水俣病被災者の会を含む新潟水俣病共闘会議および昭和電工株式会社とも、それぞれ七名以内の交渉委員をもって行なう話合いをいうものである。
 以上覚書の証として本書三部を作成し、当事者署名捺印の上、各その一部を保有する。
   昭和四八年六月二一日
      新潟水俣病被災者の会会長代行 橋本十一郎
         新潟水俣病共闘会議議長 渡辺喜八
      昭和電工株式会社取締役社長 鈴木治雄

即時抗告申立書

即時抗告申立書
東京高等裁判所民事部 御中



抗告人指定代理人

平成19年7月18日
佐久間健吉 
平野朝子  
望月亮一
服部晴彦
伊藤繁
藤原典子
三村仁
曽我高佳
和久井文夫
名倉一成
平林正章
米山節夫
川崎浩
鈴木尚
森本英香
中尾豊
目々澤淳
岩崎康孝
中原敏正
眞鍋馨
木内哲平
佐藤礼子
足立整
高橋一浩
堤達平

抗告人  国
代表者法務大臣  長勢甚遠
指定代理人
〒100−9877 東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
法務省大臣官房
参事官  佐久間健吉

法務省大臣官房行政訟務課
課付  平野朝子
第三係長 望月亮一
法務事務官  服部晴彦
〒100−8225 東京都千代田区九段南一丁目1番15号
東京法務局訟務部   (送達場所)
(電話 03−5213−XXXX)
(FAX 03−3515−XXXX)
副部長 伊藤繁
部付 藤原典子
部付 三村仁
上席訟務官 曽我高佳
訟務官 和久井文夫
〒951−8504 新潟市中央区西大畑町5191番地
新潟地方法務局訟務部門
上席訟務官  平林正
上席訟務官  米山節夫
訟務官    川崎浩
法務事務官  鈴木尚
〒100−8975 東京都千代田区霞が関一丁目2番2号
中央合同庁舎5号館
環境省総合環境政策局環境保健部企画課
課長     森本英香
課長補佐   中尾豊
企画法令係長 目々澤淳

環境省総合環境政策局環境保健部企画課特殊疾病対策室
 室長   岩崎康孝
 室長補佐 中原敏正
 室長補佐 眞鍋馨
 主査   木内哲平
 主査   佐藤礼子
環境省水・大気環境局水環境課
課長補佐  足立整
課長補佐  高橋一浩
係員    堤達平
相 手 方 別紙相手方目録記載のとおり

 新潟地方裁判所平成19年(ワ)第279号損害賠償請求事件の原告らが申し立てた同裁判所同年(モ)第45号訴訟救助申立事件について,同裁判所が同年7月9日にした訴訟上の救助の付与決定(同月11日告知)のうち,相手方らに関する部分は全部不服であるから,即時抗告の申立てをする。

第1 原決定の表示
 1 当庁平成19年(ワ)第279号損害賠償請求事件について,申立人XXXXXXを除くその余の申立人らに対し,訴え提起時に遡って,訴訟上の救助を付与する。
 2 申立人XXXXXXの本件申立てを却下する。
第2 抗告の趣旨
 1 原決定のうち相手方らに関する部分を取り消す。
 2 相手方らの本件訴訟上の救助の申立てをいずれも却下する。
第3 抗告の理由
  追って理由書を提出する。
附属書類
1 即時抗告申立書副本
2 指定書

訴状

訴    状

平成19年4月26日

新潟地方裁判所 民事部 御中

原告ら訴訟代理人 弁護士  高島 章           

(以下,訴訟代理人の記名捺印)
  当事者の表示  原告ら <別紙「原告目録」記載のとおり>
       〒951-8061 新潟市中央区西堀通七番町1551番2
ホワイトプラザ西堀2階(送達先)
TEL025-229-3902 FAX025-229-4316
原告ら代理人弁護士 障氈i高)島 章           


〒105-8518 東京都港区芝大門1−13−9
被 告 昭和電工株式会社               
代表者代表取締役 高橋恭平         
〒100-8518 東京都千代田区霞ヶ関1−1−1
被 告 国               
代表者法務大臣 長勢甚遠          
〒950-8570 新潟市中央区新光町4番地1
被 告 新潟県               
代表者知事 泉田裕彦            

新潟水俣病第3次損害賠償請求事件
 訴訟物の価額  
1 年金相当額につき   4億3074万6100円
2 損害賠償金につき   1億4400万0000円
3 死亡時の支払金につき 6000万0000円
合計 6億3474万6100円
 貼用印紙額        金192万5000円(訴訟救助の申立中につき貼付しない)


請求の趣旨

主位的請求の趣旨

1 被告らは,連帯して,原告らに対し各金1200万及びこれに対する別紙「遅滞損害金起算日」記載の日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告昭和電工株式会社は,別紙「被告昭電に対する請求」の「合計額欄記載の各金員」及び平成20年9月末日から各原告が死亡するに至るまで,毎年3月末日限り金71万4050円及び9月末日限り金71万4050円の金員を支払え。
3 被告昭和電工株式会社は,各原告に対し,原告らが死亡したとき,その原因が新潟水俣病による場合,新潟水俣病の余病又は併発症による場合及び新潟水俣病に関係した事故による場合であることを条件として,原告らの相続人に合計金500万円の支払義務のあることを確認する。
4 訴訟費用は,請求の趣旨第1項については被告ら全員の,第2項及び第3項については被告昭和電工の負担とする。
との判決ならびに請求の趣旨第1項及び第2項(ただし,「平成20年9月末日から各原告が死亡するに至るまで,毎年3月末日限り金71万4050円及び9月末日限り金71万4050円の金員を支払え。」の部分を除く)につき仮執行の宣言を求める。


予備的請求の趣旨

1 被告昭和電工株式会社は,原告らに対し各金1200万円及びこれに対する別紙「遅滞損害金起算日」記載の日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告昭和電工株式会社は,別紙「被告昭電に対する請求」の「合計額欄記載の各金員」及び平成20年9月末日から各原告が死亡するに至るまで,毎年3月末日限り金71万4050円及び9月末日限り金71万4050円の金員を支払え。
3 被告昭和電工株式会社は,原告らに対し,原告らが死亡したとき,その原因が新潟水俣病による場合,新潟水俣病の余病又は併発症による場合及び新潟水俣病に関係した事故による場合であることを条件として,原告らの相続人に各合計金500万円の支払義務のあることを確認する。
4 訴訟費用は被告昭和電工株式会社の負担とする。
との判決並びに請求の趣旨第1項及び第2項(ただし,「平成20年9月末日から各原告が死亡するに至るまで,毎年3月末日限り金71万4050円及び9月末日限り金71万4050円の金員を支払え。」の部分を除く)につき仮執行宣言を求める。


請求の原因             

はじめに         

1 本件訴訟の意義
 本件訴訟は,いわゆる「新潟水俣病」の患者である原告らに,損害賠償(被告ら全員)・補償協定の履行(被告昭和電工株式会社)を求めるものである。

2 原告ら
 原告らは,阿賀野川周辺に居住し,長年,阿賀野川の魚を喫食する等して,水俣病に罹患し,長期間にわたって,精神的・肉体的苦痛を受けてきた。

3 被告昭和電工株式会社
 被告昭和電工株式会社(以下「被告昭電」という)は,阿賀野川上流から,長期間工場廃液を排出して川魚を汚染し,これを喫食した原告に被害を及ぼした者であり,
(1) 不法行為に基づく損害賠償義務
(2) 後記する補償協定の債務者として,原告らに対して,補償協定上の債務を履行する義務
がある。

4 被告国及び被告新潟県について
 被告国及び被告新潟県(以下「被告県」という)は,関係法令上の規制権限を行使して新潟水俣病の発生やその拡大を防止する義務を有していたのにこれを怠った者であり,国家賠償法上の損害賠償義務を履行する義務がある。

主位的請求の趣旨2,3項及び予備的請求の趣旨に関する請求原因
(補償協定上の債務履行請求権)

第1 補償協定の締結について
 昭和48年(1973)6月21日,被告昭電と訴外新潟水俣病被災者の会(権利能力なき社団),訴外新潟水俣病共闘会議(権利能力なき社団)との間で別紙のような「新潟水俣病に関する協定書」(以下「協定書」と言う)が締結された。

第2 補償協定の民法上の位置づけ
 上記協定書は,民法上いわゆる「第三者のためにする契約」にあたるものである(訴外新潟水俣病被災者の会,同新潟水俣病共闘会議,被告昭電が契約当事者であり,水俣病患者である各原告らがその受益者である)。

第3 補償協定上の被告昭電の義務
補償協定で合意された被告昭電の義務は以下のとおりである。
1 被告昭電は,加害者としての責任を果たすため,過去,現在及び将来にわたる被害者の健康と生活上の全損害をその生涯にわたり償いつづける。
2 人間としての道として,すべての被害者に救済の手をさしのべる。
3(1) 死亡者及び他の介助なしに日常生活のできない者に対して一律に1500万円を支払う。
(2) その外の水俣病患者に対して一律1000万円を支払う。
(3) 水俣病患者が死亡に至るまで年金を支払う。年金額については,物価にスライドして増額される。年金支払時期は,昭和48年1月1日からとし,毎年3月末日及び9月末日を支給期日とし,年額の2分の1宛を支払う。
(4) 水俣病の患者が重症者となったとき,また死亡(原因が新潟水俣病による場合,新潟水俣病の余病又は併発症による場合及び新潟水俣病に関係した事故による場合)したときは,その時点において,金500万円を支払う。


第4 原告らがいずれも水俣病に罹患していること
 原告らは,いずれも水俣病に罹患している。
 この点につては,? そもそも,新潟水俣病とは何か(水俣病の病像)及び,? 原告らが「水俣病の病像」に当てはまり水俣病患者であることを主張する必要があるので,次の項目で主張する

第5 水俣病の病像及び原告らが水俣病患者であること
水俣病の病像
(1) 水俣病とは何か
水俣病全般
 化学工場から海や川に排出された工場排水に含まれていたメチル水銀含有物質によって魚介類が汚染され,周辺住民がそれを喫食したことによる,メチル水銀集団食中毒である。

新潟水俣病
被告昭電が経営する「昭電鹿瀬工場」が阿賀野川上流から排出したメチル水銀含有物質によって,阿賀野川の魚介類が汚染され周辺住民がそれを喫食したことによる,メチル水銀集団中毒である。

(2) 病像
 水俣病の「病像論」(どのような診断基準を満たせば,水俣病なのか)については種々議論があるが,原告らは,以下の病像論が適切であると考える。すなわち,
メチル水銀に汚染された魚介類を多食したこと,
イ 四肢末梢性の感覚障害を有すること
である(日本神経精神学会の公式見解もこれと同旨である)。

2 原告らはいずれも水俣病患者である。
 詳細は,別紙「病歴等一覧表」のとおりであり,全員が水俣病の病像に合致している。即ち原告らは,全員「新潟水俣病患者」である。

第6 受益の意思表示
1 上記のとおり,原告らはいずれも水俣病に罹患しており,上記した協定書(被告昭電と「被災者の会」・「共闘会議」との契約)について,受益者である。
2 原告らは,本訴状をもって,協定書(契約)に関し受益の意思表示をする。
3 なお,協定書には「認定患者」という文言がある。しかし,同協定書に,「この協定書に言う『認定患者』とはこれこれである」というような定義規定はない。したがって,協定書に言う「認定患者」とは,日本語の常識的な意味から見て,「水俣病と認定された患者」あるいは「水俣病と認定すべき患者」を意味するものであり,原告らは同協定書に言う「認定患者」に該当するものである(原告らが,「認定患者」に該当するか否かは,結局,御庁が本件訴訟においてこれを判断することになろう)。
4 よって,被告昭電は,原告に対し協定書で協定した条項を履行する義務がある。

5 物価スライド
 協定書において,水俣病患者に対する年金支給額は50万円となっているが,物価スライド条項があり,それぞれの年次の支給額は,次のとおりである。

昭和48年〜    500,000円
昭和50年〜    650,000円
昭和53年〜    845,000円
昭和58年〜   1,098,500円
平成10年〜   1,428,100円
第7 結語
1 よって,被告昭電は,原告らに対し,協定書に基づき請求の趣旨(主位的請求の趣旨2・3項及び予備的請求の趣旨)のとおり,
(1) 金1000万円を支払い,
(2) 物価スライドによる生涯にわたる年金を支払い,
(3) 水俣病により死亡したこと等を条件として500万円を原告らの相続人に支払う
各義務がある。

2 遅滞損害金及び弁護士費用
(1) 遅滞損害金相当額
 被告昭電は,本来,各原告が水俣病に罹患した時期に直ちに補償金を支払う義務があったのに,これを怠っている。したがって,被告昭電は債務不履行責任に基づき各原告が水俣病に罹患したときから年5分の割合による遅滞損害金の支払いをすべき義務がある。

(2) 弁護士費用相当額
 本件訴訟は専門家たる弁護士の助力なしには遂行できないものであり,被告昭電は,弁護士費用相当額200万円を原告らに各支払う義務がある。

3 結論
 よって,各原告は,被告昭電に対し,補償協定履行請求権に基づき主位的請求の趣旨2−4及び予備的請求の趣旨記載のとおりの義務があるから,御庁に対して,同様の判決を求める次第である。

主位的請求の趣旨第1項に関する請求原因
(損害賠償責任          )

第1 請求原因の要約
  原告は,
1 被告昭電に対して不法行為に基づく損害賠償責任の履行,
2 被告国及び県に対して,関係法令に基づく規制権限を行使しなかったことにより水俣病の被害を発生させた根拠とする国家賠償責任の履行,
を求めるものである。
3 以下訴状においては,
(1) 当事者
(2) 新潟水俣病の発生及びその原因
(3) 新潟水俣病の病像,上記病像に基づき原告らは全員水俣病であること
(4) 被告昭電の民法709条に基づく損害賠償責任
(5) 国及び県の国家賠償責任
(6) 損害
について主張する。

第2 当事者について
1 原告ら
 原告らは,阿賀野川周辺に居住し,長期間,阿賀野川の魚を喫食する等して,水俣病に罹患し,長期間にわたって,精神的・肉体的苦痛を受けてきた。

2 被告昭電について
 被告昭電は,阿賀野川上流から,長期間工場廃液を排出して,川魚を汚染し,これを喫食した原告らに被害を及ぼした者であり,不法行為に基づく損害賠償義務がある。

3 被告国及び県について
 被告国は関係法令(水質二法)に基づき,また,被告県は新潟県内水面漁業調整規則に基づき,被告昭電に対して,工場排水を阿賀野川に排出すること等を規制すべき義務があったのにこれを怠った者であり,国家賠償法に基づく損害賠償義務がある。

第3 水俣病の発生及びその原因,並びに新潟水俣病の発生及びその原因
1 (熊本)水俣病の発生・その原因
(1) 発生
 1950年(昭和25年)ころ,熊本県水俣市水俣湾沿岸)において,魚が大量に死んで浮上したり,1953年(昭和28年)ころから,猫が狂い死にするなどの奇怪な現象が発生するようになった。
1956年(昭和31年)4月,水俣市内在住の少女が「口がきけなくなり歩くこともできなくなる」という症状で「チッソ付属病院」に入院した。その後同様の患者が3名入院した。
 同病院の細川一院長らは,1956年(昭和31年)5月1日,水俣保健所にこの旨を報告した(この日が「水俣病公式発見の日」とされている)。

(2) 原因
 その後も,同様の症状の患者の発生が相次いだため,熊本大学医学部は,その原因の調査に着手し,1959年(昭和34年)7月に「魚介類を汚染している毒物としては,水銀が極めて注目される」との見解を示した。
水俣市内において同様の疾患に罹患した患者は,1956年(昭和31年)までの間に54名に上り,内17名が死亡していることが判明した。
その後の研究により,1963年(昭和38年),チッソ水俣工場の工場排水に含まれるメチル水銀がこれらの病気(水俣病)の原因であることが明らかとなった。しかし,チッソ水俣工場の廃液の排出は,1968年(昭和43年)まで継続した。

2 新潟水俣病の発生・その原因
(1) 発生
 上記した水俣病公式発見の日の9年後(1965年〔昭和40年〕),新潟県内の阿賀野川流域においても同種の病気が発生した。これが「新潟水俣病」である。その後も7名の患者が発見された(内2名は死亡)。

(2) 原因
1965年(昭和40年),新潟水俣病の原因は「川魚と推定される」との見解(北野新潟県衛生部長)が発表され,1966年(昭和41年)3月厚生省は「事件(新潟水俣病)はメチル水銀化合物によって汚染された魚介類の摂取によって発生したもの」との中間報告が発表されたが,原因企業が被告昭電であるとの断定までには至らなかった。
 しかし,その後の厚生省特別研究班の調査により,1967年(昭和42年)に4月,「水俣病の原因は,阿賀野川の上流にある昭和電工鹿瀬工場の排水である」との見解に達し,また,そのころ,新潟大学及び新潟県も,同様の見解を公表した。
 1968年(昭和43年)9月,政府は,統一見解を発表した。その内容は,「新潟水俣病の原因は,昭和電工鹿瀬工場のアセトアルデヒト製造工程中に副生されたメチル水銀化合物を含む排水である」というものである。
 1971年(昭和46年),御庁におけるいわゆる新潟水俣病第1次訴訟の判決により,水俣病の原因は,被告昭電の工場排水であることが司法上の公式見解となった。

第4 被告昭電の故意・過失
 被告昭電は,遅くとも1961年(昭和36年)暮れまでには,熊本水俣病の原因がメチル水銀を含有した工場排水であることを知った。したがって,同被告は,遅くともその時点で,工場排水を阿賀野川に流出することを止める義務があった。しかるに,同被告は,故意にこの義務に違反し,原告らを水俣病に罹患させたものである(上記した新潟水俣病第1次判決も同様の認定をしている)。

第5 水俣病の病像及び原告らが水俣病患者であること
水俣病の病像
(1) 水俣病とは何か
水俣病全般
 化学工場から海や川に排出された工場排水に含まれていたメチル水銀含有物質によって魚介類が汚染され,周辺住民がそれを喫食したことによる,メチル水銀集団食中毒である。

新潟水俣病
被告昭電が経営する「昭電鹿瀬工場」が阿賀野川上流から排出したメチル水銀含有物質によって,阿賀野川の魚介類が汚染され周辺住民がそれを喫食したことによる,メチル水銀集団食中毒である。

(2) 病像
 水俣病の「病像論」(どのような診断基準を満たせば,水俣病なのか)については種々議論があるが,原告は,以下の病像論が適切であると考える。すなわち,
メチル水銀に汚染された魚介類を多食したこと,
イ 四肢末梢性の感覚障害を有すること
である(日本神経精神学会の公式見解もこれと同旨である)。

2 原告らはいずれも水俣病患者である。
 詳細は,別紙「病歴等一覧表」のとおりであり,全員が水俣病の病像に合致している。即ち原告らは,全員「新潟水俣病患者」である。

第6 国及び新潟県の責任
 1 熊本水俣病関西訴訟について
 いわゆる「水俣病関西訴訟」において,国の責任は確定している(最高裁判所2004(平成16)年10月15日判決)。
 同訴訟では訴外熊本県の責任(国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任)も確定しているが,同様の責任は,被告県にも認められるべきである。
 新潟水俣病第2次訴訟においては,国の責任が認められず,また,そもそも新潟県を被告としなかったのだが,上記した「関西訴訟」の判示事項は,新潟水俣病においても等しく妥当するものである。
 関西訴訟判決の判示内容は,国及び県の責任を明らかにするため不可欠なので,項を改めて解説する。

2 上記判決は,国及び熊本県の責任につき,次のとおり判示している。
(1) 国は,1960(昭和35)年1月以降,チッソ水俣工場の排水に関して,公共用水域の水質の保全に関する法律(1970(昭和45)年法律第108号による改正前のもの。以下「水質保全法」という)及び工場排水等の規制に関する法律(以下「工場排水規制法」という。この両法を併せて「水質二法」という)に基づき,また,熊本県は,熊本県漁業調整規則(1951(昭和26)年熊本県規則第31号。以下「県漁業調整規則」という)に基づき,規制権限を行使しなかったことは違法であり,1960(昭和35)年1月以降に水俣湾またはその周辺海域の魚介類を摂取して水俣病となった者及び健康被害の拡大があった者に対して国家賠償法第1条第1項による損害賠償責任を負う。
(2) 水質二法所定の規制は,?特定の公共用水域の水質の汚濁が原因となって,関係産業に相当の損害が生じたり,公衆衛生上看過し難い影響が生じたりしたとき,またはそれらのおそれがあるときに,当該水域を指定水域に指定し,この指定水域に係る水質基準(特定施設を設置する工場等から指定水域に排出される水の汚濁の許容限度)を定めること,汚水等を排出する施設を特定施設として政令で定めることといった水質二法所定の手続が執られたことを前提として,?主務大臣が,工場排水規制法7条,12条に基づき,特定施設から排出される工場排水等の水質が当該指定水域に係る水質基準に適合しないときに,その水質を保全するため,工場排水についての処理方法の改善,当該特定施設の使用の一時停止その他必要な措置を命ずる等の規制権限を行使するものである。そして,この権限は,当該水域の水質の悪化にかかわりのある周辺住民の生命,健康の保護をその主要な目的の一つとして,適時にかつ適切に行使されるべきものである。
 そして,1959(昭和34)年11月末の時点で,?1956(昭和31)年5月1日の水俣病の公式発見から起算しても既に約三年半が経過しており,その間,水俣湾またはその周辺海域の魚介類を摂取する住民の生命,健康等に対する深刻かつ重大な被害が生じ得る状況が継続していたのであって,国は,現に多数の水俣病患者が発生し,死亡者も相当数に上っていることを認識していたこと,?国においては,水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源がチッソ水俣工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況にあったこと,?国にとって,チッソ水俣工場の排水に微量の水銀が含まれていることについての定量分析をすることは可能であったことといった事情を認めることができる。なお,チッソが1959(昭和34)年12月に整備した前記排水浄化装置が水銀の除去を目的としたものではなかったことを容易に知り得た。
 そうすると,同年11月末の時点において,水俣湾及びその周辺海域を指定水域に指定すること,当該指定水域に排出される工場排水から水銀またはその化合物が検出されないという水質基準を定めること,アセトアルデヒド製造施設を特定施設に定めることという上記規制権限を行使するために必要な水質二法所定の手続を直ちに執ることが可能であり,また,そうすべき状況にあったものといわなければならない。そして,この手続に要する期間を考慮に入れても,同年12月末には,主務大臣として定められるべき通商産業大臣において,上記規制権限を行使して,チッソに対し水俣工場のアセトアルデヒド製造施設からの工場排水についての処理方法の改善,当該施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命ずることが可能であり,しかも,水俣病による健康被害の深刻さにかんがみると,直ちにこの権限を行使すべき状況にあったと認めるのが相当である。また,その時点で上記規制権限が行使されていれば,それ以降の水俣病の被害拡大を防ぐことができたこと,ところが,実際には,その行使がされなかったために,被害が拡大する結果となったことも明らかである。
 これら諸事情を総合すると,1960(昭和35)年1月以降,水質二法に基づく上記規制権限を行使しなかったことは,上記規制権限を定めた水質二法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法第1条第1項の適用上違法というべきである。
(3) 熊本県知事は,水俣病にかかわる諸事情について国と同様の認識を有し,または有し得る状況にあったのであり,同知事には,1959(昭和34)年12月末までに県漁業調整規則32条に基づく規制権限を行使すべき作為義務があり,1960(昭和35)年1月以降,この権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法第1条第1項による損害賠償責任を負う。なお,同規則は,水産動植物の繁殖保護等を直接の目的とするものではあるが,それを摂取する者の健康の保持等をもその究極の目的とするものである。

3 上記関西訴訟の判決は,本件訴訟にも適用されるべきである。
新潟水俣病は,上記熊本水俣病よりも9年後に発生したものであり,最高裁判決の法理は,本件訴訟においても等しく妥当するものであり,国及び新潟県国家賠償責任は明らかである。

(1) 水質二法上の責任(被告国)
ア 被告昭電は(当時は昭和肥料鹿瀬工場)1929年(昭和4年)にカーバイド・石炭窒素等の生産を開始した。
イ 1936年(昭和11年)6月,昭和合成株式会社は,水銀等を触媒にしてアセトアルデヒトの生産を開始した。
ウ 1939年(昭和14年)6月,昭和肥料と日本電気工業とが合併し,被告昭電が設立された。
エ 1957年(昭和32年)5月,被告昭電は,昭和合成株式会社を吸収合併し鹿瀬工場のアセトアルデヒド生産設備を増強した。
オ 同年9月25日,被告昭電は,阿賀野川漁連の訴えにより,被告県と「残滓ならびに汚濁水の処理については,被害のおそれなきよう適切な処理を行うものとする」という趣旨の覚え書きを交換した。
カ 被告昭電鹿瀬工場裏手のカーバイト残滓捨て場が崩落し,阿賀野川へ放流した。このため河口まで多量の魚が死滅した。
キ 1965年(昭和40年)1月10日,被告昭電は,アセトアルデヒドの生産を停止した(その際,被告昭電は,アセトアルデヒド製造工程図を焼却し,製造プラントを撤去した)。
 以上のような昭電の行為から見れば,被告国は,水質2法に基づき,遅くとも1960年(昭和35年)以降,その規制権限を行使すべきものであり,規制権限を行使しなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法である。

(2) 漁業規則上の責任(被告県の責任)
 新潟県内水面漁業調整規則(昭和26年12月4日 新潟県規則第89号)は,第21条において
「水産動植物に有害な物を遺棄し、又は漏せつするおそれがあるものを放置してはならない。
2 知事は、前項の規定に違反する者がある場合において、水産動植物の繁殖保護上害があると認めるときは、その者に対して除害に必要な設備の設置を命じ、又は既に設けた除害設備の変更を命ずることがある。」
と定めている。
 当時の新潟県知事は,水俣病にかかわる諸事情について国と同様の認識を有し,または有し得る状況にあったのであり,同知事には,遅くとも1959(昭和34)年12月末までに同規則に基づく規制権限を行使すべき作為義務があり,1960(昭和35)年1月以降,この権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くものである。
 よって,被告県は,国家賠償法第1条第1項による損害賠償責任を負う。
 

第7 原告らの損害
1 原告らは,被告らの共同不法行為により水俣病に罹患したものであり,被告らに対して高額の損害賠償を求める権利がある。

(1) 被告昭電の悪質性
  以下のとおり,被告昭電の責任は極めて悪質であり,高額の慰謝料支払いが相当である。
ア 補償協定を反故にし,今日まで水俣病患者への正当な補償をしていないこと。
イ 工場廃液が水俣病の原因であることを知った後に,アセトアルデヒトの生産量を急増させており,被告の責任は,犯罪行為にも等しい故意によるものであること。

(2) 被告国及び県の悪質性
ア 新潟水俣病は,熊本水俣病に対しての被告国の責任回避ともいうべき対応によって引き起こされたといえる。国は熊本水俣病が発生した時点で原因の究明を怠り,チッソ水俣工場と同様の生産を行っていた昭和電工鹿瀬工場の操業停止という措置をしなかったからである。
イ 「水俣病関西訴訟」の判例を無視して,いわゆる「昭和52年基準」に固執し,果たすべき責任を放置した。
ウ 原告らは,新潟大学(国立)における検査に際し,あたかも「詐病・ニセ患者」であるかのような非人間的な扱いを受けた。
エ 両被告らは原告ら及びその他の患者全員に対して直ちに正当な補償をすべき義務があるのに,いわゆる行政認定の申請を棄却したり,長年放置しており,のみならず,最近に至っては,「安上がりの政治決着」を図っている。
2 原告らは,水俣病に罹患してから,その一生を終えるまで,生涯にわたり筆舌に尽くしがたい苦痛を受ける。原告らは,水俣病に罹患したことによって,多様な健康被害を被ったことはもとより,長年月にわたって多大な苦痛を受けてきたし,これからも受け続ける。
 原告らのこうした精神的苦痛に対する慰謝料を算定すると1000万円が相当である。
 この慰謝料の支払い遅滞の起算日は,それぞれの原告に水俣病の症状が発生した日(交通事故等と違い,正確な特定は困難である)から,相当時期を経過した日からである。

第8 弁護士費用
 本件訴訟遂行に要する弁護士費用は,原告一人当たり,200万円が相当である。

第9 結論
以上の次第であるから,原告らは,被告らに対し,民法第709条,国家賠償法第1条第1項に基づき,連帯して原告1人あたり一律金1200万円及びこれらに対する別表「遅滞損害金起算日」から完済に至るまで民法所定の年5分の割合による損害賠償金の支払いを求める。

立証方法              

甲1 新潟水俣病のあらまし(新潟県発行)
その他は,追って口頭弁論において提出する。

添付書類           

1 資格証明書        1通
2 訴状副本         3通
2 訴訟委任状       12通

呼びかけ文

平成19年3月2日
弁護士       先生

〒951-8061 新潟市西堀通七番町1551−2 ホワイトプラザ西堀2階
                      弁護士 高島 章
Tel(025)229-3902
Fax(025)229-4316

新潟水俣病第3次訴訟について
(お願い)

拝啓 先生方におかれては,ご繁忙のことと存じます。

1 この「お願い」の文書は,比較的若手の方で,公害・人権問題について熱意をもたれているに違いない先生方にお送りするものです。
2 各種報道等でご承知のとおり,小職は,本年3月末日を目処として,新潟水俣病第3次訴訟を提起することになりました。昨年の秋ころから木戸病院名誉院長斉藤恒先生が小職事務所を来訪され,「新潟でも九州でもミナマタはまだ終わっていない」とのご教示を受け,小職自身,その間あれこれ考えましたが,先生の熱意に押され,このたびの決心に至ったものです。
3 私は,1992年,弁護士登録と同時に新潟水俣病第2次弁護団に加入し,現在でも同弁護団の団員です。
 その任に相応しい活動をしたかと問われれば,内心忸怩たる思いがあります。
 新婚間もないころ,妻と共に中村洋二郎先生,原告団長 故南熊三郎さん,高野秀夫さんに連れられて水俣市内の集会に参加した記憶は今でも鮮明です。昭和電工本社前での街宣活動,佐渡島(当時はいくつかの市町村に分かれていました)の自治体巡り・・・。
 熊三郎さんも,共闘会議議長 清野晴彦先生も亡くなってしまいました。
4 既に「歴史」になったのかも知れませんが,村山内閣(元最高裁長官 その当時 第二次訴訟控訴審裁判長 町田顕)が主導した新潟水俣病第2次訴訟のいわゆる「政治決着」は,その当時の情勢に鑑み,文字どおり「苦渋の決断」でした。この決断を「現在」という高見に立って批判することは容易いことかも知れません。しかし,歴史というものは,直線的に進行するものでも弁証法的に発展するものでもなく,たいていの場合「気まぐれ」にあえて比喩的に表現すれば「螺旋的」に動いていくものです。
 水俣病関西訴訟の「最高裁決着」は村山内閣の時代には予想だにできないことだったと思います。神か預言者でない限り・・・。
5 しかし,そうはいっても水俣病の歴史は大きな転機を迎えました。2004年10月15日,最高裁はこれまでの行政認定基準を否定し,水俣病の患者さんに一人あたり約850万円の損害賠償を「国」と「チッソ」に命じたのです。
この判決を機に,種々の事情で今まで声を上げられなかった人々が立ち上がり,九州では,1000人を超える方々が新たに訴訟を提起しました。
6 今年に入ってから,行政レベルにおいていろいろな動きがありました。しかし国(環境省)がこれまでの行政認定基準(昭和52年制定)を変更しない限り救済の希望はないと考えるほかありません。
7 当地新潟においても九州の動きと連動し,新潟県内における患者さん数名が第三次訴訟の原告となることとなりました。原告の居住地区・年代は様々です。今後,相当数の患者さんが原告に加わることも予想されます。
8 日常業務に追いまくられており,小職一人の力では,とてもこの訴訟の代理人の職務を果たせません。そこで,まことに厚かましいことですが,諸先生のご助力を仰ぐ次第です。弁護士費用として如何ほどの金額がお支払いできるか分かりかねる状況であり,訴訟においては,時効・除斥期間等の種々の難問が立ちふさがっています。
 9 原告希望者との集会
6−8名の原告予定者との集会があります。
 日時:本年3月4日(日曜日)午後3時
 場所:新潟市津島屋「新潟水俣病被災者の会」会館(参加していただける先生は小職が送迎します)。